少し前に銀座鈴画廊で開催された3人展「冴ゆる」が無事終了しました。6日間という間で沢山の方々にお越しいただきました。本当にありがとうございます。
この展示は同じ栃木県出身で同じ予備校出身の作家同士の3人展でした。ありそうでない組み合わせでもあり、ご来場いただいた方々はそこにも興味を持ってくれたご様子でした。
・『冴ゆる』について
今回の「冴ゆる」という言葉は作家3人で話し合って決めたタイトルでした。この言葉は冬の季語であり、寒さが凛と極まる様子を示します。その様は私たち3人の絵に対する姿勢に共通のものがあるように感じられ、この言葉を選びました。
絵の作風も方向性も進んだ大学も異なる3人ですが、日本画を専攻していた(している)という背景は一緒です。
日本画専攻における教育では〝写生〟や〝ものと向かい合う〟精神が重要視されています。打ち合わせの際にお互いの制作に対する想いを話し合っていくうちに、各々の根底にも共通のものが流れているのを感じずにはいられませんでした。
ものを見た瞬間、スケッチをする瞬間、素材に触れた瞬間、絵の具を指で溶く瞬間…。それらの一つ一つの瞬間に私たちは着眼点を見出し、〝描く〟という行為によって画面に昇華させているのかもしれません。
その姿勢は冬の空気が澄み渡る様のようでもありながら、何らかの力が解き放たれる一瞬の輝きのようにも感じます。
これらを表す言葉を検討し、「冴ゆる」という言葉を選びました。
・展示を振り返って
展示を行った3人は先ほど述べた通り同じ日本画を専攻していながらも作風はそれぞれ異なります。
福田彩乃さん
福田彩乃さんは使用する素材に対する姿勢を大切にしながらも、それを生かした大胆な表現が印象に残ります。
福田彩乃《後ろ髪》2023
様々な産地の和紙を生かした表現と緩急のある絵の具の使われ方は、大胆な構図とモチーフと画面の中でリズミカルに響き合いながら鑑賞者の視点を動かしていきます。そこからは福田さんの高度な技術と卓越したセンスを垣間見ることができます。
それは素材に対する尊敬の意と画面構成に対する強い想いの現れの様にも感じられました。
《後ろ髪》抜粋
柴田彩都さん
柴田彩都さんはご自身の思い入れのある題材を描きながら、岩絵の具を生かした色の表現が魅力的です。
柴田彩都《ツタ》2023
地元栃木県でスケッチを重ね、そこから描かれていく絵は青や緑の岩絵の具を生かして柔らかに描かれています。それは身の周りの風景の一片でありながらも、どこか幻想的です。
柴田さんはご自身の“ 思い出 ”や“ 記憶 ”も手がかりに絵を描かれていることも語られていました。 もしかするとそれが実際の見た光景と絵の具の表現と混ざり合いながら幻想的な世界にを作り上げているのではないかと思わされました。
柴田彩都《幼少の記憶 -観覧車-》2023
星 和真
そして最近の自分は要素を極力取り除き、画面の中の構図や線の重なりといったものに着目しながら絵を描いています。
星和真《午前4時》2023
生き物をモチーフにした絵が多いのは変わりませんが、今までよりも画面の中の構図や動きを意識する様になりました。また複数の物や線の重なりにも目を向ける様にもなりました。モチーフに対する捉え方も変化して、生き物そのものというよりはシンボルや記号に近いと感じています。この変化が今後どの様に生きていくのか自分自身楽しみでもあります。
星和真《鳥たちの毎日》2023
おそらくこの3人に共通しているのは、伝統や自身が描くものを大切にしながらも既成の概念に捉われない志を持っていることだと今回改めて気付きました。
会場はそれぞれの作品が絶妙に響き合う空間に仕上げることができました。
今回だけに限らずにまた同じメンバーで展示がしたいです!
・最後に
本当にたくさんの方々に支えられて、この展示を開催することができました。
約半年前から行ってきた3人の打ち合わせから会場の準備や在廊に至るまで、展示を重ねるごとに新たな発見と学びが増えてゆきます。
それは自ら動かなければ得ることができないものであり、そういった意味でも今回の3人展を行えて正解でした。この様な展示を一年の締めくくりに行うことができて幸せです。
この経験を生かして今後も精進していきたいです。
最後に
展示にお越しくださった皆様
展示を通して私たちを知ってくださった皆様
広報にご協力いただいた皆様
鈴画廊のオーナー様
そして、福田さんと柴田さん
3人展『冴ゆる』を支えていただいた全ての方々に感謝申し上げます。
本当にありがとうございました。
Comments