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  • 星 和真

【 市展を終えて 】

更新日:2022年12月30日







電話









2022年11月16日 







その日は雲ひとつ無く、よく晴れた日だったのを覚えている。



正午を回った頃、郵便ポストには一通の封筒が届いていた。


届け元は蕨市役所。



ここ数日待ち侘びていた市展の結果通知だった。










震える手で封筒を開けていく。



中に三つ折りで入っていた用紙をゆっくり広げていった。




するとそこには〝埼玉県知事賞〟と書かれているのが目に入った。











結果がわかってすぐ、僕は実家に電話を掛けていた。



その時はまだ自分で何が起きているかあまり理解していなかったと思う。




とにかく咄嗟の行動だった。







電話口では父が出た。



「はい、星です。」



聞き慣れたいつもの低い声が電話越しに聞こえる。




「久しぶり父さん。和真。」




「おう。どうした?」




「突然ごめん。実は大事な報告があるんだ。」




公募について、その結果について話をしていった。




「うん。うん…。」




父はうなずきながら話を聞いている。


その声を聞きながら話を進めていく。








するとどうしてか



自然と涙が溢れてきた。






自分でも驚いた。



声が段々と震え、うまく言葉を発せなくなっていくのを感じた。



電話向こうで父も驚いたと思う。





だが、涙は止まることなく溢れ続けていった。






---






今までずっと迷惑ばかりをかけてきた。



迷惑ばかりの鼻垂れ小僧だった。




だがそんな自分が絵を描くきっかけを作ってくれたのは


親であり、家族であり、


そして生まれ育った故郷の風景だった。




学生の頃からずっと、絵を描いている時は


頭のどこかで必ずその光景を思い浮かべていた。


忘れたことなんて無かった。




〝こんな田舎の町からでも必ず〟




そう思って描いてきた。






だから、何も結果を出せない自分が何よりも悔しかった。





学生時代、〝落選〟と書かれた通知を手にアパートの玄関で何度も涙した。





会社員時代、働きながら全力で描いた絵が落選。仕事帰りに雨が降りしきるバス停で一人涙を流した。





何を描けばいいか分からずただ闇雲に絵を描いた時もあった。

ひたすら描いても描いても、結局何も得ることは出来なかった。








---







今までの日々が想起していく。


そして〝知事賞〟の通知を握りしめている。




“これでやっと恩返しができるんだ”




そう考えると涙が止まらなかった。





家族だけではない。


今まで自分を支えてくれた人たちの顔が浮かんだ。






表現において賞を獲ることがすべててはない。


最近は自分にもそう言い聞かせて絵を描いてきた。


確かにその通りだ。


わかっているつもりだった。



だが、それを何より追い求めていたのは他の誰でもなく自分自身だったのだ。








真昼間のアパートの部屋で1人、


嗚咽混じりに「ありがとう。ありがとう。」


父にそう伝え続けた。





電話口で父は


「おめでとう。でもまだこれからだかんな!」


と訛った口調で言った。







その言葉はどこか懐かしく





優しく、そして強く





胸の奥に響いていった。








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